マンジャロ・ダイエットの真実
― 罪と罰 ―
はじめに
近年、「マンジャロ・ダイエット」という言葉を耳にする機会が増えています。糖尿病治療薬であるマンジャロを、ダイエット目的で使用する方法が、インターネットやSNSを中心に広まっているのです。しかし、この流行の背後には、一般の方々にはあまり知られていない重大な問題が潜んでいます。
本書は、こうした状況に警鐘を鳴らすとともに、読者の皆様に正確な情報をお届けすることを目的として執筆いたしました。医療用医薬品の適応外使用がもたらすリスク、そして万が一トラブルに巻き込まれた際の対処法について、できる限り分かりやすくご説明してまいります。
特に注目すべきは、2025年4月から日本で発売が開始された「ゼップバウンド」の存在です。この薬剤は、正式に肥満症の適応を持つ医薬品として承認されています。つまり、日本においても、医学的に適切な肥満症治療薬が利用可能になったのです。
この状況の変化により、リベルサスやオゼンピックといった糖尿病治療薬を、経済的理由や利便性のみを理由にダイエット目的で処方・使用することは、医療従事者にとって注意義務違反の立証が格段に容易になりました。適切な治療薬が存在するにもかかわらず、あえて適応外の薬剤を選択することの正当性を説明することは、極めて困難になったと言えるでしょう。
さらに深刻なのは、SGLT2阻害薬(カナグル、フォシーガ、ジャディアンスなど)やメトフォルミンのケースです。これらの薬剤は肥満症に対する承認を受けておらず、体重減少効果も限定的であることが知られています。にもかかわらず、その効果を誇大に宣伝して処方した場合、薬機法違反に加えて詐欺罪に問われるリスクも生じます。
医療従事者の方々にとって重要なのは、こうした違法行為の時効が最低でも3年間であるという事実です。「周囲も同じことをしているから」「これまで問題にならなかったから」という理由は、もはや通用しません。ゼップバウンドという正規の肥満症治療薬が利用可能になった今、適応外使用を続けることに対する法的な責任は、より明確になったのです。
本書では、こうした医学的・法的な問題について、一般の読者の方々にも理解していただけるよう、平易な言葉で解説することを心がけました。専門用語を使用する際には、必ず注釈(注1のような形式)を付し、各章の末尾で詳しい説明を加えています。どうぞ安心してお読みください。
皆様の健康と安全のために、そして適切な医療を受ける権利を守るために、本書が少しでもお役に立てることを願っております。